白い犬の物語






もちぽさんがシュンをモデルに描いてくれたお話です。
とても素敵な物語です。どうぞお楽しみください!!



『その日は、ちょっといやなことがありました。
それで僕は、むしゃくしゃしながら歩いていました。
よく晴れた空の色も、なんだか灰色に見えます。
余計イライラのつのる色だと思いました。
いっそ、この世から色がなくなってしまえばいいのに、
そう思っていると、くちなしの香りがしました。
濃く甘く、しかし、清らかな水のようにさらさらと
僕の中を通りすぎていきます。
それに誘われるように歩いてゆくと、
ちょっと見事なくちなしの茂みがありました。
影の部分など、群青にも見えるほど、濃い緑の中に
たくさんの、白くふくよかな花がありました。
静かにたちこめる香りが、ふわりと動きました。
一群の花々が動いたと思いましたが、違います。
犬です。
白い犬が、ひときわ白く咲き誇る茂みに佇んでいたのです。
「くちなしがお好きですか」

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犬がたずねました。
「白がすきなのです、穢れのない、美しい色です」
僕は答えました。
「なにもかもが真っ白になってしまったら、どんなにか僕は安らげることでしょう」
「白は穢れのない色ですが、他のものも、何もありません」
「君は白い世界を知っているの」
「はい、私の生まれたところです」
「なぜこんないろいろな色の混ざり合った、むしゃくしゃするような世界にわざわざ来たの」
「あそこはとても静かで、とても退屈で、とても孤独ですよ
 …ささくれた心を癒してくれる何かすら欠如しています」
僕は犬に何もかも見透かされている気がしました。
「私は黒い瞳をもらって、この世界に来てよかったと、そう思います」
犬は立ち上がりました。
だれか、待つ人がいるのでしょう。
「ああ、きれいな空だこと」
そういうと、それはそれは軽やかに走り去りました。
取り残された僕は、しかし、とても晴れやかな気分になっていました。
さて、どこかにいかなければ。
どこかへのみやげを得ようと、くちなしの茂みに手を伸ばしました。
そして、つやつやとした、あざやかな緑の葉を一枚摘み取ると、
犬が走っていったほうへ、ゆっくりと歩き出しました。』




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